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夫婦と子供二人のための住宅である。場所は早稲田の賑やかな学生街から少し離れた古くからある住宅地で、ブロック塀や生垣、石積みの塀に挟まれた細い路地や階段が、毛細血管のように張り巡らされている。案内されたのは間口4.1m、奥行き12.5mという所謂鰻の寝床と呼ばれるような敷地で、その奥行きの深さは早稲田の小路がそのまま続いているようで、すでに親密な空間がそこにあるように感じられた。

この家の家事の多くは父親がこなしている。洗濯乾燥機で上がった衣類をそのままハンガーにかけておける広いランドリー空間、コンパクトで無駄のないキッチンと一体のダイニングスペース、家事のしやすい動線等は、そんな父親からの要望だった。そして限られたスペースでも、仕事と育児に疲れた時に引き篭もれる自分だけの場所がほしい、というのが多忙な母親の要望であった。また東西と南は隣地が迫り土地に余裕が無いものの、それでも外を感じられて、ゆったりとした気持ちになれる空間を希望しているということだった。

必要諸室を考えると生活空間は自然と縦の方向へ伸びて行く。どうしても居室に対する階段の占める面積が大きくなってしまうので、いっそのこと家の真ん中に、階段のような、床のような、どちらでもありえるものを作ったらどうだろうかと考えた。頭の中には数年前にブラジルに行った際に訪れた、リナボバルディがリノベーションを行った展示室の階段があった。それは無垢の木材のみで作られた大きな螺旋階段で、1段に人が2、3人腰掛けられるくらいの幅広の段板がゆったりと中央の丸柱を中心に伸び上がり、1階と2階を繋いでいた。部屋の大きさは全く異なるが、床のような階段がそれぞれの生活空間を繋いでゆけば、階段が邪魔者扱いされることもなくなるだろうし、リビングやダイニングといった名前がついている部屋ではない、自由に腰掛けて気ままに過ごせる場所が、家の真ん中に広がっているのはなんだか楽しそうである。

大きな螺旋階段は構造や施工の点から鉄骨造となった。むき出しの鉄の持つ肌触りが、クリーンに仕上げられた居室と対照的に野生的であり、周囲に絡みつきながらぐんぐんと育っている蔦植物のようでもある。またこの階段の空間は、外構のほとんどないこの家の庭でもある。4つの天窓と隣地の通路に開いた大きな開口によって、外部のように明るい空間となった。家族は部屋を行き来するたびにこの庭のような空間を通ることになる。また時には階段がそれぞれの部屋の延長として使われ、椅子になったり机になったりもする。早稲田の路地がそれぞれの家の庭先を繋いでいるように、すべての部屋がいつの間にかこの階段によって繋がってゆくことで、ゆったりとした心地よい家になると良いなと考えている。

構造/TECTONICA INC. 施工/山菱工務店